「デュープリズムは自身の成長期だった」作曲家・仲野順也に聞くデュープリズムの音楽世界【20周年記念インタビュー】

ゲーム音楽

ノストラダムスやY2K問題などが世間を賑わせた西暦1999年、スーパーファミコンからプレイステーションにメインプラットフォームを移したゲームソフトメーカーのスクウェア社は、円熟の時代を迎えていた。

この年、スクウェア社は同社の人気作品である、「ファイナルファンタジー」シリーズ、「サガ」シリーズ、「聖剣伝説」シリーズ、「クロノ」シリーズ、「フロントミッション」シリーズ、「パラサイト・イヴ」シリーズの最新作などを一気にリリースし、1年間で合計500万本を超えるソフトの販売本数を記録している。
ハリウッド映画版「ファイナルファンタジー」の制作もこの頃進行しており、ゲームソフトメーカーという枠を超え、最新のデジタルメディアコンテンツを生み出す企業として名を馳せていた時代だ。

そんな華やかな時代のスクウェア社が、約30人という当時の規模としては小さなチームで開発をし、今から丁度20年前の1999年10月14日、大作ラッシュが続く中ひっそりとリリースをしたRPGがある。

「デュープリズム」より、主人公の1人ミント
イラスト提供:あい。

デュープリズム」と名付けられたその作品は、初動販売数こそ振るわなかったものの、その世界観やシナリオ、個性的なキャラクターや、小気味よく動くグラフィックなどが評価され、遊んだプレイヤーによる口コミで徐々に知名度を伸ばし、「知る人ぞ知る良作RPG」としてゲームの歴史にその名を残した。
発売後5年以上に渡って公式ホームページの更新が続いたことや、某企画発案サイトの「続編を希望するゲーム」の部門では長期に渡り1位を保持し続けたことなども、その人気を強く裏付けている。
2019年現在もPSアーカイブとして現行機種で遊ぶことができ、「Threads of Fate」の題で英訳版もリリースされているため、日本、そして世界で今もなお愛好家を増やし続けている作品だ。

デュープリズム サウンドトラック

デュープリズムというゲームを語る上で外せない要素の一つが、魅力的なサウンドの存在である。
ミニマルミュージック、プログレッシブロック、テクノ、ポップス、民族音楽などといった様々な音楽性を散りばめたBGMは、デュープリズムの持つ一風変わったファンタジーの世界を見事に彩っており、演出をよりドラマチックなものへと昇華させることに成功している。

今回、そんな珠玉の音楽を造り上げた作曲家、仲野順也氏に幸運にもメールにてインタビューの機会をいただき、当時のお話を伺うことができたので、発売20周年記念への祝辞の意味も込め、記事としてまとめていきたいと思う。

Profile : 仲野 順也(なかの じゅんや)
1971年生まれ、京都府出身の作曲家。
(株)コナミのサウンド部「矩形波倶楽部」の一員としてアーケードゲームの作曲に携わった後、(株)スクウェアへ転職。
現在は退社しフリーの作曲家として様々なゲームやオムニバス作品に楽曲を提供したり、ソロアルバムをリリースするなど、多方面で活躍中。(2019年10月現在)
代表作品は他に「ファイナルファンタジーX」「アナザー・マインド」「武蔵伝2」など。

本人公式Webサイト
Bandcamp

Wikipedia「仲野順也」より一部引用

作曲前の情報収集にはかなり時間をかけた

─ 今回はよろしくお願いします。
まず、デュープリズムの音楽担当をするまでの経緯をお伺いします。デュープリズムの音楽を担当するのはいつ頃、どのようなきっかけで決定したのでしょうか?

仲野:知らない間に決まっていました。(笑)1998年春、ランチの時間に植松さん1)言わずと知れたスクウェアの看板作品「ファイナルファンタジー」シリーズの楽曲を生み出した筆頭人物、植松伸夫氏のこと。と出会った際、
「あ、そうそう。次の担当決めといたから」
「アクションで格闘ゲーム。そういうの得意でしょ?」
「開発スタートは夏の終わりらしいよ。」
「まだまだ先だけど今やってるの終わったら詳細は、打ち合わせしてね」
・・・そんな風に担当が決まったことを知らされたのを覚えています。

─ めちゃくちゃ軽いですね。(笑)
仲野さんは当時既に数々のゲームタイトルに関わったキャリアをお持ちでしたが、ファンタジーRPGの音楽を全て作り上げるというのはデュープリズムが初めての作品だったと思います。プレッシャーや、構想を練る上で苦労をされた点などはありましたか?

仲野:作曲自体に関してはプレッシャーはなかったです。ただ、スケジュールに関しては初期の頃はプレッシャーがあったように思います。
・・・というのも杉本さん2)デュープリズムのディレクターであり、メインプログラムも担当している杉本浩二氏のこと。凄腕のプログラマーとして2019年現在も活躍中。と音楽の初の打ち合わせを1998年9月におこなった時に、

・ゲームは1999年5月完成予定(6月デバッグ作業、7月に発売予定)*
・音楽はたぶん40~50曲は必要
・1999年3月にゲームが一通り完成するので、具体的な曲発注は3月末にする予定

と知らされたからです。
1998年9月の段階ではゲームはほとんど出来ていなくて、箱庭のようなデモしかなく、なんとなく子供向けなのかな?・・・という状態でした。
1999年3月に曲の発注が始まるということで、そこから作曲を始めていると5月には到底、間に合いそうにありませんでした。
そこで、とにかく早い段階からたくさん曲を作れるだけ作ってストックしておく方法をとることとして、スケジュールだけはいつも気にしながら早々に作曲をスタートしました。

*その後、様々な要因(大型ソフトの発売や自社ソフト発売タイミング等)で予定は延びて、最終的には8月開発終了~9月デバッグ~10月発売となったのですが。

─ RPGの音楽を作るという点で、何か参考にされたアーティストや作品などはありますか?

仲野:デュープリズムに関しては、さまざまな音楽の要素を入れたいと思っていたので、作曲前の情報収集にはかなり時間をかけました。
なので影響を受けた作品、アーティストは数え切れないほどありますが、その中でも当時、特に強く影響が出ていると思うのは下記の通りです。

【ゲーム(ゲームと音楽)順不同】

FFシリーズ(スクウェア)
聖剣伝説シリーズ(スクウェア)
チョコボの不思議なダンジョン(スクウェア)
サガ フロンティア2(スクウェア)
風のクロノア(ナムコ)
イースシリーズ(日本ファルコム)

【アーティスト(音楽)順不同】

野見祐二
坂本龍一
古代祐三
濱渦正志
植松伸夫
TECHNOuchi
Michel Sanchez
Anthony Phillips
久石譲
川井憲次
岩崎工
三枝成彰
Wally Badarou
sabres of paradise
Shogun / artemis (Oliver Lomax)
mar-pa
Claus Ogermann
Pat Metheny
Manuel Göttsching
Klaus Schulze
Carl Stone
Steve Reich
Philip Glass
Terry Riley
Akira Miyoshi
Zoviet France
Maurice Ravel
Erik Satie
Rei Harakami

やればやるほど、良い曲が出来る状態

─ 次に、デュープリズムの作曲中の話をお伺いします。デュープリズムの収録曲の中で、最初に作った曲、最後に作った曲を教えてください。

仲野:最初に作ったのは「東天王国の謎」(1998年11月25日作曲)です。デュープリズムの前に担当していた仕事が終わり休暇で京都に滞在中だった時に作曲したものです。会話シーンをイメージして作りました。デュープリズムの世界観や雰囲気をどう表現するかのプロトタイプとして作ったものです。この曲を元にして、徐々に世界観を固めて他の曲も作っていきました。

ゲームに収録している曲で最後に作ったのは「最後の戦い2」(1999年8月3日作曲)です。7月にラスボス曲を作った後に、実はそれよりもっと凄いラスボス曲が必要になり、開発終盤に大急ぎで作った曲です。

その後、9月にTVCM用の曲を2バージョン作りました。デュープリズムオリジナルサウンドトラックCDに収録されています。
そういう意味では、最後に作った曲は、

・デュープリズムTVCM ~15秒CM版(1999年9月13日作成)
・デュープリズムTVCM ~30秒CM版(1999年9月13日作成)

の2曲とも言えるかも知れません。
締切に追われる中、このTVCM曲はマニピュレーターの岩﨑さん3)岩崎英則氏。スクウェア(スクウェア・エニックス)で数多くの作品のマニピュレートを担当する他、自身で作曲も行っている。にシンセオペレートをお願いして2人で試行錯誤を繰り返し、楽しみながら完成させました。

─ TVCM用の楽曲がサウンドトラックに収録されているというのは当時のスクウェアの作品の中では珍しかったですね。アンコールが追加されたような感じで、ファンの立場としてもとても嬉しかったです。

仲野:あまり意識していなかったのですが、確かに珍しいのかも知れませんね。
TVCM用の楽曲は、大量のシンセサイザーやサンプリング音源をふんだんに使ってかなり自由に作っているので、制約だらけの内蔵音源との違いを楽しんで貰えれば・・・と思って収録しました。

─ 曲数の多い部類の作品ではありますが、作曲に苦労をされた曲はありましたか?ありましたら理由もお願いします。

仲野:今振り返ってみればかなり無茶していたというか、大変だったように思いますが、当時は、あまり大変とか苦労という感覚を持っていなかったように思います。

デュープリズムでは作曲を始めると自然に次々とイメージが湧いてきました。

おそらく、今まで自分自身でもあまり作った事の無い音楽性だった事もあって試したい事が山ほどあったのも一因かと思いますが、発注に対して何曲も様々な解釈の曲が出来上がっているという事もありました。
作れば作るほど、やればやるほど、良い曲が出来る・・・という感じだったので、自身の成長期なのだとどこかで悟り、寝食を忘れスケジュールギリギリまで、何曲も何曲も作曲して、一番いいと思うものを厳選して提出するというようなことをしていました。

─ 作曲期間中にあった出来事など、印象に残っているエピソードがありましたら教えてください。作曲のお仕事と直接関係のないお話でも構いません。

仲野:デュープリズムは私も気合いを入れて作っていましたが、マニピュレーターの岩﨑さんも相当な気合いをいれて内蔵音源に変換していました。

プレイステーションの内蔵音源に曲を変換する作業は本当に制約が多く、私の作る曲は結構、再現が難しい無茶なデータが多かったと思うのですが、岩﨑さんが内蔵音源に変換した曲を聴くとどれも見事としか言いようが無いほど、完璧に再現されていました。
さらに、音質向上に余念が無く、原曲の良さを理解しながらできることはすべてやっているのが出来上がった曲からありありと伝わってくるので、本当に岩﨑さんと組めて良かったと思いました。

実際のところ、もし岩﨑さんがいなければ、音楽はここまでの評価はされていなかったのでは無いかとさえ思います。

要らない部分を削って、本当に必要なのは何かを見極める

─ 次に、作曲環境や音楽の方向性について伺います。仲野さんがデュープリズムの前に作曲をされた「アナザー・マインド」では、ほぼ全ての曲をRoland SC-88Pro4)Rolandが一般向けのMIDI音源として1996年に発売した音源モジュール。Windows環境でも使用できることや、シーケンサーソフトなどをセットにしたオールインワンパッケージ「ミュージ郎」の発売により、DTM(デスクトップミュージック)という言葉が一般に広く知れ渡るきっかけにもなった。のMIDIで作り上げ、マニピュレーター(岩崎さん)を驚かせたというエピソード5)「アナザー・マインド オリジナルサウンドトラック」内における岩崎英則氏のライナーノーツより。が印象に残っています。デュープリズムにおける制作環境(ハードウェア、ソフトウェア)はどのような物を使用していたのでしょうか?

仲野:デュープリズムも、アナザー・マインドと同じで、音源はRoland SC-88Proのみで作曲を行なっています。
作曲ソフトは、NEC PC98NS/A6)NECが発売していたPC-9800シリーズと呼ばれたパーソナルコンピューター。ゲーム制作においてもコーディング等様々な環境において使用されていた。とカモンミュージック社製レコンポーザー7)「レコポ」の略称で知られるミュージックシーケンサー。CUI(キャラクターベース)のインターフェースを採用しており、直接値を書き込んでいくことで楽曲を制作していく。レトロゲームの内蔵音源との相性もよく、多くのゲーム音楽作曲家がこのソフトを使用していた。の組み合わせを使用していました。これは単純に慣れていたからです。
当時、ほぼ全員のマニピュレーターもSC-88Proを所有していたので、他のスタッフとの共同作業などでもデータのやりとりが簡単で重宝していました。

ちなみに当時は、脳内にもう一つのSC-88Proがある・・・と言えるレベルで使いこなしていて、極端な話、スピーカーやヘッドホンが無くても打ち込みの数値を見るだけで最終的にどんな音が出ているのか脳内でかなり正確に再生出来ました。

Roland SC-8820
筆者が所有しているSC-88Proの後継機の一つであるSC-8820。何故か植松伸夫氏からサインを頂いている。

─ 当時はDTMの文化が一般にも浸透し始めていた時代で、アマチュアでもSC-88Proのような音源を使って打ち込みをしていらっしゃる方が多かったですが、そこまで使いこなしているのはかなり凄いと思います!

仲野:たぶん、行き着くところまで行っていたんだと思います。恐ろしくSC-88Proに集中していたというか・・・脳が極限までフル活動していたというか・・・。
なので、デュープリズムの開発が終わった時にものすごいレベルで体調不良になったんです。
「こんな仕事のやり方をしていたら間違いなく、早死にする・・・」と実感したのを覚えています。
何でもやりすぎは体に良くないということかも知れません。(苦笑)

─ かなり無理をされたのですね・・・!
音楽性についてですが、デュープリズムの音楽はミニマルミュージックの要素やクラブミュージック的なリズムの打ち込みなど、当時のファンタジーRPGとしては珍しい形のアプローチが多く見られますが、これには何か狙いがあったのでしょうか?

仲野:今、思い出してみると特に狙っていたわけでもなかったと思います。私自身の音楽的な一面が出ているということだと思います。

─ デュープリズムの音楽にはいくつかのモチーフがあり(「デュープリズムのテーマ」のメロディや「邂逅」のメロディなど)、それを色々な曲で鳴らすという編成をされていますが、ゲーム本編のストーリーに沿った上でモチーフの組み立てをされたのでしょうか?

仲野:例えば、「フィナーレ~ミント」という曲はもともと「デュープリズムのテーマ」が流れるオープニングデモ画面で使うつもりで作曲したものです。(実際は曲はもう少しシンプルでした)
コード進行がコロコロと変わるイメージで作ったのですが、提出してみると開発チームから「なんか違う」という反応でした。
聞いてみると「もっとコロコロと場面転換にあうようなスピード感のある曲を作って欲しい」とのこと。

コードの変化はあまり関係無いと判明。
解釈にズレがあったと判断して、新たに作ったのが現状の「デュープリズムのテーマ」です。
その後「フィナーレ~ミント」はそのまま長い間使う場所が見つからずに放置されました・・・(でも良い曲だと思っていたので、どこかで使いたいと思っていました)

・・・が、開発終了間際にスタッフロール曲が2バージョン必要という事で「フィナーレ~ルウ」を作曲したあと「フィナーレ~ミント」を改造して、他で使った様々な曲から必要と思われるメロディーやモチーフを移植して新たにエンディング用曲として生まれ変わりました。

このように全体のバランスを見ながら、作っていく過程でタイミングをみて修正し組み立てていくことは多かったです。

─ メインテーマの完成にはそんな経緯があったのですね・・・!
モチーフの使い方といえば、メルのアトリエの入り口のBGM(ファンシーメル)では、カローナの森から徐々にアトリエのファンシーな空間に移っていくゲーム内でのシーンが、曲のイントロの部分でもモチーフの変化によって表現されていて、よく考えてあるなと感心した覚えがあります。
ああいった表現の仕方は実際にゲーム画面に合わせて作曲をされているのでしょうか?

仲野:ゲーム画面を見ながらが理想ですが、前述のとおりでそれらはかなり後で出来上がったので、実際は、曲発注の資料などを元に作曲しました。
これらが問題なく作曲出来たのは、曲発注の際にかなり詳細な情報(使用場所や用途、演出面)をもらえていた事と、ゲームが実際に出来上がってからも、問題があれば曲を修正したり、演出に合うようにバージョン違いを作ったりして楽曲のバランスを調整する時間が潤沢にあったからだと思います。

ファンシーメル
メルのアトリエの入り口の様子。森からの場面変化がBGMによっても表現されている。ここで発生する「スターライトデューク」のイベントはファンの間でも非常に人気。

─ それから私自身の感想になるのですが、デュープリズムはフィールドやダンジョンのBGMがとても心地良く、長い探索も苦にならないように感じました。アクションRPGは通常のRPGのようなザコ敵との戦闘BGMが無いため、必然的にフィールドのBGMを長くプレイヤーに聞かせる必要などがあると思いますが、曲を聞き飽きさせないための工夫点などありましたら教えてください。

仲野:スクウェアに入る前の、コナミ時代に学んだことは影響していると思います。
コナミに入社間もない頃の話、作曲して出来上がった曲を上司にチェックしてもらった時のエピソードですが・・・

作った曲を上司にもっていくと、
「ほう・・・いいね。じゃあ構成はそのまま曲の長さを半分にしてね、それと、続きにサビを追加してね」
指示通りに修正したものを再び上司に聴いてもらうと、
「ふむ・・・いいね。じゃあ構成そのまま曲の長さを半分にして、さらにこの続きにもっとイケてるサビを追加してね」との一言。
さらに指示通り修正したものを再び上司に聴いてもらうと笑顔で、
「じゃあ最後に・・・この後ろにもっとサビてるサビを追加するとよくなると思わない?」
との一言。

・・・とまあ、こんな感じのことがありました。

要らない部分を削っていくと、本当に必要なのは何かを見極める必要があります。
間延びしないように圧縮を意識して曲を作ると長く聴いても飽きにくくなるとは思います。

さすがにデュープリズムではコナミレベルの圧縮はやり過ぎ感が出てしまうのでここまでのことはしていませんが、少しは意識して作曲していたように思います。

─ 聞き手を飽きさせないようにするためには色々な要素をどんどん足していけばいいと素人考えでは思ってしまいがちですが、そうやって削って選定をしていくことが大事なんですね。とても勉強になります。
ところで音源の話に戻りますが、サウンドトラックのライナーノーツで「デュープリズムは最初は格闘ゲームだと勘違いしていたので、海外製の危ない音の出るシンセサイザーを自前で用意した」という執筆をされていましたが、その後その「危ない音」に出番はあったのでしょうか?

仲野:デュープリズムでは、危ない音に出番は全くありませんでした。
もう名前も失念したのですが、当時としてはまだ珍しいWindows用のソフトウェアシンセサイザーを用意しました。
いかにもな特徴的な音がいっぱい出せたのですが、格闘ゲームでも無いデュープリズムでは一切使わず、FFXも求められることなく、
・・・そうこうしている内に、動作環境がWindows 98くらいまでというソフトだったので、使う機会も無いまま気がつけば動作するPCも無くなり、結局ほとんど使わないまま廃棄したように思います。(苦笑)

─ そうだったんですね。仲野さんの作る「危ない楽曲」聞いてみたかったです。(笑)

バグチェックチームからの反応が変わった

─ 作曲を終えられた後についてお伺いします。出来上がったデュープリズムの楽曲群の中で、仲野さん自身の特に思い入れのある楽曲や、「ここを聞いてほしい」と思っている所を教えてください。

仲野:デュープリズムの曲は、どれも思い入れのある曲ばかりですが、特に気に入っているのは、ラスダン川の上流旅立ちの森フィナーレ~ミント~フィナーレ~ルウ~とかですね。
それと、集いし者たちちょっとドキドキ!元気!とかも好きな曲です。

自分自身、久しぶりに曲を聴く度に新たな発見があったりしますし、それぞれが、気に入ったところを聴いてもらえれば良いのではと思ったりしています。

─ サウンドトラックの曲名、トラックの収録順序などは仲野さん本人が決定したのでしょうか?

仲野:最初に曲名と収録順序を私がおおまかに決めて杉本さんに確認してもらいましたが、そのあと、CDマスタリングでスタジオに行く1週間ほど前になって、予定していた曲順では、CDの規格的にぎりぎり入らない可能性が判明したので、直前になって、やむなく規格内に収まるよう数曲、2枚のディスクの間で曲移動して調整したのが最終稿となります。
(一応、最終稿もディレクターの杉本さんに確認して貰って決定しました。)

─ Disc RUEにはストーリー性の強い曲や少し重ための曲、Disc MINTには明るくポップな曲が多く、その時の気分によって流すディスクを選べるような構成になっているのはサウンドトラックとしてはとても珍しく、面白いと思いました。

仲野:そう感じてもらえたなら幸いです。
せっかく2枚組のCDですから気分にあわせてディスクを選べれば楽しみやすいかな・・・という意図はありました。

─ デュープリズムの完成後、社内の開発スタッフやテストプレイヤーの方々、購入したプレイヤーの方々から音楽についての反響も多くあったかと思います。いただいた感想の中で、特に嬉しかった言葉などはありましたか?

仲野:発売後は好意的な感想が寄せられてホッとしました。

印象に残っているのは、発売前、開発終盤に社内のバグチェックチームからのバグのレポートのコメントでした。
ゲームにラスダンや邂逅の曲を実装したところ、バグチェックチームからのレポートの中に、明らかにゲームのバグのレポートでは無いものが送られて来ました。

「この音楽すごく良過ぎてヤバい、曲の後半が良い。テンション上がる」とか、
「この新曲最高。音楽聴きたいから今日はもうバグチェックは諦めた
「このメロディが来て欲しいと思う絶妙なところで鳴るのが最高

・・・みたいなことが書いてあって、マニピュレーターの岩﨑さんと読んでニヤニヤした記憶があります。

音楽を相当気に入ってくれていて、仕事そっちのけでその後も曲に関する良いと思うポイントなんかを書いて送ってきてくれていたので、社内とは言え、世に出る前だったので、読んでいてなるほどと思うことも結構あって修正して反映させたりして、結構、ありがたかったなと思います。

─ バグチェックを諦めた、はまずいと思いますが(笑)、プレイヤーの立場として気持ちはよく分かります・・・!

この度は貴重なご回答をいただき、誠にありがとうございました。
最後に、デュープリズムやその音楽を愛するファンの方々へ、20周年を記念して何かコメントをよろしくお願いします。

仲野:近年、イベントなどに出演するようになって、デュープリズムやその音楽について、たくさんの熱いメッセージをいただくようになり、発売から20年経った今も、多くの方に御支持いただいていることに、只々、感謝の気持ちしかありません。
本当にありがとうございました!




非常に失礼な話ではあるのだが、インタビューを行う前、私は勝手ながら、仲野氏はあまり自分の感情は表に出さず、多くを語らない人物、というイメージを抱いていたので、あまりコメントを頂けないのではないかと少し心配をしていた。
しかしそれは全くの杞憂で、仲野氏から頂いた回答はとても自信に満ちており、文面越しでもその溢れる情熱が見て取れるものだった。
それだけデュープリズムの音楽が仲野氏の経験と理論、信念に基づいた強い矜持によって生み出された、渾身の作品だということなのだろう。そして、それが決して見栄や誇張ではないということは、ファンの方々もよくご存じなのではないだろうか。

あまり目を当てられなかった発売当初から、多くの人に名作として認知されるまでに至ったデュープリズムの20年間。その素晴らしい世界と、それを彩る仲野順也氏の音楽は、この先も広く語り継がれていくものであると確信している。

(インタビュー・記事作成:けんT)

※「デュープリズム」及び作中コンテンツの著作権は(株)スクウェア・エニックスにあります。
記事内容の商用転載はご遠慮いただくようお願い致します。

脚注

脚注
1 言わずと知れたスクウェアの看板作品「ファイナルファンタジー」シリーズの楽曲を生み出した筆頭人物、植松伸夫氏のこと。
2 デュープリズムのディレクターであり、メインプログラムも担当している杉本浩二氏のこと。凄腕のプログラマーとして2019年現在も活躍中。
3 岩崎英則氏。スクウェア(スクウェア・エニックス)で数多くの作品のマニピュレートを担当する他、自身で作曲も行っている。
4 Rolandが一般向けのMIDI音源として1996年に発売した音源モジュール。Windows環境でも使用できることや、シーケンサーソフトなどをセットにしたオールインワンパッケージ「ミュージ郎」の発売により、DTM(デスクトップミュージック)という言葉が一般に広く知れ渡るきっかけにもなった。
5 「アナザー・マインド オリジナルサウンドトラック」内における岩崎英則氏のライナーノーツより。
6 NECが発売していたPC-9800シリーズと呼ばれたパーソナルコンピューター。ゲーム制作においてもコーディング等様々な環境において使用されていた。
7 「レコポ」の略称で知られるミュージックシーケンサー。CUI(キャラクターベース)のインターフェースを採用しており、直接値を書き込んでいくことで楽曲を制作していく。レトロゲームの内蔵音源との相性もよく、多くのゲーム音楽作曲家がこのソフトを使用していた。